一般社団法人 日本タトゥーイスト協会

沿革/ごあいさつ​​

彫師、タトゥースタジオオーナーの皆様へ

日本タトゥーイスト協会の発足に向けて

ご存じのとおり、今月14日、大阪高等裁判所は、医師法違反の罪に問われた彫師に対して、逆転無罪判決を言い渡しました。「医師でなければ入れ墨を彫ってはならない」という非常識な考えが、この無罪判決によって覆されたのは、まずは喜ばしいことです。

しかしながら、「無罪判決が出た以上、もう、何の問題もない」と思うのは早合点です。大阪高等裁判所は、その判決文のなかで、次のように述べています。

「海外主要国においては、タトゥー施術業に医師免許を要求している例は見当たらず、医師が行うべき医療行為とは別個の規制がなされている。そうすると、我が国でも、彫師に対して一定の教育・研修を行い、場合によっては届出制や登録制等、医師免許よりは簡易な資格制度等を設けるとか、タトゥー施術業における設備、器具等の衛生管理や被施術者に対する施術前後の説明を含む手順等に関する基準ないし指針を策定することなどにより、保健衛生上の危害の発生を防止することは可能であると思われる。」

「入れ墨(タトゥー)の施術に伴う保健衛生上の危害のおそれという問題に対しては、医師法の医行為を拡張的に解釈してこれを処罰対象として取り込むのではなく、必要に応じて、業界による自主規制、行政による指導、立法上の措置等の規制手段を検討し、対処するのが相当というべきである。」

大阪高等裁判所は、「医師でなければ入れ墨を彫ってはならない」などというバカなことは言わないけれど、保健衛生上の危害のおそれという問題については、彫師のみなできちんとやってくれよ、という強いメッセージをこちらに投げかけているのです。

今回、大阪高等裁判所は、彫師は芸術にたずさわるものである、と真正面から認め、その職業に対して最大限のリスペクトを示しました。その裁判所が「保健衛生についてはきちんとやってくれ」とのメッセージを発しているのです。今度は、彫師の方々がこのメッセージに応える番です。

私たち呼びかけ人は、裁判での闘いとは別に、彫師自らが業界団体を立ち上げ、自分たちが守るべき一定の衛生基準を設けて、入れ墨の安全性を広く訴えかけていく必要があると考えて、協会の設立準備を進めてきました。

今般、大阪高等裁判所における逆転無罪判決を経て、業界団体はむしろその必要性が増しているのです。

今回の無罪判決を受けて、行政も医師法以外の規制について考え始めることでしょう。彫師が職業としてこれからも認められ、リスペクトされるために、適切なルールについて行政や立法と話し合いをしていくことが必須となります。そのルールの内容については、彫師の意見を反映させなければなりません。業界団体がなければ、現場を知らない役人や学者による的外れな規制が一人歩きしてしまう可能性があります。これを防ぐためにも、業界団体は必要不可欠なのです。

彫師の方々の協会への参加を心からお待ちしております。

2018年11月15日
弁護士 吉田泉. WizardTS・Eru. ANTENNA. 文身堂.

なぜ今タトゥーイスト協会が必要なのか?

1989年​

厚生労働省は「顔面にあるシミ・ホクロ・あざなどの部分の皮膚に肌色等の色素を注入する」行為を医業行為に該当すると回答した。​

※参照リンク『厚生労働省』
・医師法上の疑義について(平成01年06月07日医事第35号)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta0950&dataType=1&pageNo=1

2000年

エステサロンにおけるアートメイク、レーザー脱毛、ケミカルピーリングに関して、警察庁から厚生労働省に「これらは医業行為に抵触するのではないか?」と質問。
厚生労働省は、「電動式アートメイク器具を使用して皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為」などについて、「医業に該当する」と回答した。​

※参照リンク『厚生労働省』
・医師法上の疑義について 照会 (平成12年05月18日警察庁丁生環発第110号)
・医師法上の疑義について 回答 (平成12年06月09日医事第59号)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6716&dataType=1&pageNo=1

2001年

厚生労働省から各都道府県の衛生主菅部に宛てた通知において、厚生労働省は「針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為」は「医師免許を有しない者が業として行えば医師法第17条に違反する」ことなどを「再度徹底する」とした。
前年の「医師法上の疑義について」の回答における「電動アートメイク器具を使用して」との表現が、「針先に色素を付けながら」に修正されている。

※参照リンク『厚生労働省』
・医師免許を有しない者による脱毛行為等の取扱いについて
各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医政局医事課長通知(平成13年11月8日医政医発第105号)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6731&dataType=1&pageNo=1

2011年

内閣府の消費者委員会において、無資格者によるレーザー脱毛、アートメイク、まつ毛エクステンション等の施術が行われ、健康被害が生じていることが取り上げられた。

※参照リンク『内閣府』 エステ・美容医療サービスに関する消費者問題についての建議 https://www.cao.go.jp/consumer/iinkaikouhyou/2011/1221_kengi.html

2015年

4月下旬から5月中旬にかけて、大阪と名古屋のタトゥースタジオ及びアーティスト十数名が警察による家宅捜索を受け、その後、医師法違反による逮捕者が複数出る。
そのうち、9月に医師法違反の罪で在宅のまま起訴された増田太樹さんは、簡易裁判所による罰金30万円の略式命令を拒否し、正式裁判を申し立てる。
増田太樹さんは、暴力団関係者との交際及び資金提供はなく、年齢確認も行い、確定申告では職業を『彫師』として申告。
健康被害も出していなかった。12月に第一回公判前整理手続き終了。

2016年

通常国会厚生労働委員会において、タトゥーについての質疑応答が行われた。

そこで「彫師に医師免許を求めるのではなく、タトゥーを業と認めてタトゥー独自の制度を検討するべきではないか?」との質問に対し、塩崎厚生労働大臣(当時)は「(皮膚への)侵襲をする、そういう行為であって、当然、保健衛生上の問題が起こり得る、感染症になる、そういうおそれがあります(が、一方では)文化的な側面もあると考えられるわけで(過去にも柔道整復師などは)それぞれの方々はそれぞれの団体としての声を上げられていろいろ議員立法などがなされたということも考えてみると、どういうニーズがあるのかということは、当事者あるいは関係者、こういった方々がどういうふうに考えているのかということを押さえるとともに(中略)世界でもいろいろ扱いがそれぞれの国によってあるように、それぞれの文化で対処しているわけでありますから、そこのところは議論を深めていただくということが大事」と回答した。

※参照リンク 厚生労働委員会『国会会議録』
・第190回国会 厚生労働委員会 平成28年3月9日 第3号 (PDF) 6頁~7頁
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/190/0097/19003090097003.pdf
・ビデオライブラリ(質疑者:初鹿明博)
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=45596&media_type=

2017年

大阪地方裁判所にて、医師法違反を問うタトゥー裁判開始。4月の初公判より8月最終答弁を経て、9月の判決にて「医師が行わなければ保健衛生上、危害を生ずるおそれのある行為」であるとして罰金15万円の有罪判決が下される。即日控訴。

2018年

大阪高等裁判所にて、9月控訴審第一回公判、11月の判決にて逆転無罪。

裁判では、タトゥーは「医師の業務とは根本的に異なる」と医行為には当たらないとし、タトゥーに対する否定的な見方があることは否定できないとしながらも、タトゥー施術業は、反社会的職業ではなく,正当な職業活動であると明言。

ただし、タトゥーの施術に伴う保健衛生上の危害のおそれという問題に対しては、医師法の医行為を拡張的に解釈してこれを処罰対象として取り込むのではなく、必要に応じて業界による自主規制、行政による指導、立法上の措置等の規制手段を検討し、対処するのが相当というべきであるとも言及している。

なお、大阪高等検察庁はこの判決を不服とし、最高裁へ上告。

※参照リンク『裁判所』判決全文
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=88172f

現在 2019年

医師法違反を問うタトゥー裁判は、最高裁判所でどう判断されるのかは誰にも予測できません。

早急に業界団体の発足が求められています。全国統一の衛生管理方法などの自主規制をまとめ、広く世間に伝わる形で提示する必要があります。

業界が一丸となりしっかりと取り組みがなされている様子がなければ、一度無罪になった判決も台無しになる可能性が危ぶまれます。

大阪高等裁判所の判決にもある通り、世の中の期待に応えられる協会を自分たちの力で立ち上げましょう。