一般社団法人 日本タトゥーイスト協会

井岡選手への処分について

WBO世界スーパーフライ級王者の防衛戦に勝利した井岡一翔選手について、試合中に入れ墨を露出させたことが日本ボクシングコミッション(JBC)のルールに抵触するとして、JBCが処分を検討していると報道されています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/f11d40bb858cd4788275b35b112c81a0ce82c159

しかしながら、「入れ墨など観客に不快の念を与える風体の者」を試合出場の欠格事由とするJBCのルールは、以下の2点で不合理なものです。

まず、JBCは「入れ墨とファッションとしてのタトゥーの線引きは難しく、反社会的勢力の象徴としてのイメージは今なお消えていない」と主張していますが、世界チャンピオンである井岡選手と「反社会的勢力」との間に関わりがあると言わんばかりの主張は、井岡選手を侮辱するものです。

次に、「入れ墨」を欠格事由とするJBCのルールは、外国人に適用されないとされており、これは不合理なダブルスタンダードというほかありません。そもそも、井岡選手をはじめとするボクサーたちは、それぞれ、個人としてその力量を高めるべく努力し、個人として自らの戦いに臨んでいます。にもかかわらず、国籍が日本か否かによって、試合中に入れ墨を露出してもよい/悪いが決められるというのは、ボクサーの個人としての尊厳をあまりに軽んじるものです。

医師免許を持たずにタトゥーの施術を行った彫師が医師法違反に問われた刑事裁判において、最高裁は、「一部の反社会的勢力が自らの存在を誇示するための手段としてタトゥーを利用してきたことも事実である。しかしながら、他方において、タトゥーに美術的価値や一定の信条ないし情念を象徴する意義を認める者もおり、さらに、昨今では、海外のスポーツ選手等の中にタトゥーを好む者がいることなどに触発されて新たにタトゥーの施術を求める者も少なくない」と述べています。
報道によれば、井岡選手は、1年5か月ぶりの再起戦を戦う際に、決意と覚悟を示す証としてタトゥーを入れ始め、さらに、家族とともに戦う意味も込めて長男の名前も入れたとされています。
このような井岡選手のタトゥーは、最高裁の言うところの「一定の信条ないし情念を象徴する」ものであることは明らかです。そして、個人が自らの「信条ないし情念」に従って入れたタトゥーについて、対外的な場での露出を禁じる(それも国籍が日本である場合のみ)ことには、何らの合理性も認められません。

以上より、本協会は、JBCが、試合中のタトゥー露出を理由として井岡選手に対して処分を下すことに反対の意を表明します。